ロータリースイッチについて

ロータリースイッチの役割

図 1. ロータリースイッチ (rotary switch)

ロータリースイッチ (rotary switch) は、図 1 のようなスイッチです。
円形の本体に一つの操作軸と多数の接点(端子)がついています。本体は操作軸の根元でパネルなどにネジ止めできるようになっています。操作軸の直径は 6 mm のものが主流です。
ロータリースイッチは、電気回路の中で、切り替え選択をしたいときに使います。一つの端子が「共通端子」となっていて、それを多数の「選択端子」に切り替えて接続できます。操作軸を回すと共通端子が接続する選択端子が次々に移り変わっていきます。移り変わる順番は決まっているので、途中を飛ばして離れた選択端子に直接切り替えることはできません。


回路数と接点数

ロータリースイッチの仕様には、「回路数」と「接点数」があります。「回路数 (pole)」は一つの共通端子とそれが接続できる複数の選択端子のセットのことです。トグルスイッチなどでの「極」に相当します。一つのロータリースイッチの中に一つのセットしかないときは「1回路」、二つの独立したセットがあるときは「2回路」となります。一般的なロータリースイッチでは1〜6回路です。
「接点数 (position, throw)」は、トグルスイッチなどでの「投」に相当し、一つの回路での選択端子の数を示します。共通端子は数に入れません。従って、ロータリースイッチから突き出ている端子の数は、回路数に「接点数+1」を掛けたものになります。
呼び方の例としては、「4回路3接点」 = 「4-Pole(PL) 3-Position(POS)」 = 「4P3T」などがあります。
操作軸はすべての回路に共通ですので、すべての回路が同期して切り替わります。ただし製作精度などから切り替えタイミングは微妙に前後することがあるので、厳密な同期が必要な切り替えには適しません。


ロータリースイッチの特長

ロータリースイッチは、一つのスイッチで多数の回路を同時に多数の接点に切り替えられることが特長です。レバーを倒す方式のトグルスイッチでは、左右の位置に真ん中を加えても最大3接点くらいしか切り替えられませんが、ロータリースイッチでは30°おきに切り替えるとしても全周 360°で 12 接点も切り替えられます(共通端子は内側に設置されていることがしばしばあります)。スライドスイッチでも4接点以上のものはありますが、直線的な操作部の移動は人間には扱いにくく、選択位置の数が多くなると誤操作が増えます。その点ロータリースイッチは「回転角度」によって選択位置を決めるので、人間に操作しやすく位置を把握しやすいという特長があります。
ロータリースイッチは、内部で多段構成にすることで回路数も多くできる特長があります。2回路を2段積み重ねれば4回路、4段積み重ねれば8回路になります。一般的な一段の構造では、30°おきの 12 個の選択端子の使い分けとして、「1回路 12 接点」「2回路6接点」「3回路4接点」「4回路3接点」などがみられます。


ショーティングタイプとノンショーティングタイプの使い分け

ロータリースイッチに限らずトグルスイッチなどにも該当しますが、スイッチの切り替え時の端子の接続状況の変化に「ショーティング タイプ (shorting type)」(ショート型)と「ノン ショーティング タイプ (non shorting type)」(ノンショート型)があるので注意が必要です(「タイミング (timing)」と表記されます)。この二つの違いは重要で、間違った選択をすると電気回路や装置を破壊してしまうこともあります。

まず、「ノンショーティングタイプ」ですが、これは図 2 のように、スイッチの切り替えタイミングの途中で共通端子がどこにも接続しない瞬間が発生するタイプです。選択端子 1 から隣の選択端子 2 に移り変わるとき、共通端子 0 が次のような動作をします。

  1. 共通端子 0 が 選択端子 1 から切り離される。
  2. 共通端子 0 も選択端子 1 , 2 も、すべて互いに接続されない開放状態になる。
  3. 共通端子 0 が 選択端子 2 に接続される。

一方、「ショーティングタイプ」は図 3 のような構造で、スイッチの切り替えタイミングで共通端子は次のような動作をします。

  1. 共通端子 0 が 選択端子 1 と選択端子 2 の両方に接続した状態になる。
  2. 共通端子 0 と選択端子 1 , 2 は、互いにショートされた状態になる。
  3. 共通端子 0 が 選択端子 1 から離れ、選択端子 2 にのみ接続された状態になる。

図 2. ノンショーティングタイプ
(non shorting type)
図 3. ショーティングタイプ
(shorting type)

この二つの特徴をまとめると、次のようになります。

ノンショーティングタイプ
ショーティングタイプ
このことから、利用目的によってはこれらのどちらかのタイプしか使うことができず、他方を使うと電気回路の誤動作や装置の破壊につながることがあります。


ノンショーティングタイプが必要な例

ノンショーティングタイプを使わなければならない典型的な例は負荷や電源の切り替えにロータリースイッチを使うときです。図 4 は三つの負荷をロータリースイッチで切り替える場合ですが、ノンショーティングタイプを使えば問題なく切り替えることができます。もしもここでショーティングタイプのロータリースイッチを使うと、切換の途中で二つの負荷が両方とも電源に接続され、電源が過負荷になることがあります。

電源を切り替えるときも同様です。図 5 は三つの電源を切り替えるのにロータリースイッチを使っていますが、ノンショーティングタイプを使わなければなりません。もしショーティングタイプを使うと、電源同士が共通端子を介してショートされることになります。

図 4. 負荷を切り替える例 図 5. 電源を切り替える例

ショーティングタイプが必要な例

逆に、ショーティングタイプを使わなければならない場合もあります。これは回路の断線が途中で起きてはならない場合に用います。例えば、図 6 は抵抗値の切り替えにロータリースイッチを利用した例です。ロータリースイッチを回すことによって直列接続された抵抗の任意の位置に共通端子をつなぎ、回路の抵抗値を段階的に変えられるようにしたものです。ここではショーティングタイプが必須です。ショーティングタイプであれば切り替え途中で回路が断線することはなく、抵抗値はスムーズに段階的に切り替えられます。もしもここでノンショーティングタイプのスイッチを使うと、切換の途中で断線が発生し、無限大の抵抗が接続されたのと同じことになってしまいます。

同様に、隣り合う選択端子を短絡して同じ端子として利用したい場合にも、ショーティングタイプが必須です。図 7 は2回路3接点のロータリースイッチを使い、回路 A はポジション 2 と 3 で ON になり、回路 B はポジション 3 のみで ON になるようにしたものです。このとき、回路 A では選択端子 2 と 3 を短絡接続して同じ端子として利用しています。ここで、ポジション 2 →ポジション 3 の切り替えの途中でも回路 A が ON を維持するためには、ショーティングタイプのスイッチを使わなければなりません。もしノンショーティングタイプを使うと、切り替え途中で回路が断線し、電気回路の誤動作につながります。

図 6. 抵抗値を段階的に切り替える例 図 7. ON 状態を維持する切り替えのある例

このように、利用目的によってショーティングタイプとノンショーティングタイプを使い分ける必要があるので、ロータリースイッチを購入するときは、仕様書をよく見てどちらのタイプであるか確認するようにしましょう。英語では (shorting) と (non-shorting) のほかに、(make-before-break (MBB)) または (break-before-make (BBM)) と表記されることもあります(make は接続、break は遮断の意味で、切り替え時にどちらが先に起きるかで表現しています)。

ショーティングタイプとノンショーティングタイプのどちらでもよい、という場合ももちろんあります。隣り合う接点の間で ON - ON の関係が決してない場合、つまり開放端子との間で OFF - ON の切換にのみ使用する、という場合はどちらのタイプを使ってもかまいません。


2回路3接点のスイッチがないときは…?

量産品のロータリースイッチは、接点の選択位置が 30°おきのものがほとんどでそれ以外はめったにみられません。価格も安く、大量に生産されるものなので構造は画一化されています。先にも述べたように全周 360°を 12 分割して作ると、「1回路 12 接点」「2回路6接点」「4回路3接点」などとなり、用途によっては回路数や接点数が余ってしまいます。例えば「2回路3接点」が欲しいときはどれを選べばよいでしょうか?

もし将来的に選択数を増やして「2回路4接点」や「2回路5接点」にする可能性があるなら、「2回路6接点」を選ぶとよいでしょう。ただし「2回路6接点」は6ポジションありますので、当面使わない位置にもスイッチが回ってしまいます。うっかりその位置に回してしまったとき、回路が誤動作しないように配慮する必要があります。余った接点を開放しておくか、どれかの端子に短絡接続しておくか、よく考える必要があります。

一方、3接点で変わる可能性がないときは、「4回路3接点」のスイッチを使って接点の多重化を図ることができます。つまり2回路の余りを信頼性向上のための冗長接点として有効利用するのです。複数の回路の共通端子と選択端子をそれぞれ並列接続すると、図 8 のように一つの回路の切り替えに複数の接点を使えるようになり、信頼性が向上します。つまりどちらかの接点に汚れなどで接触不良が起きても、他方の接点が正常なら回路に異常は起きないというわけです。

図 8. 二つの回路を並列利用した例

ただし、複数の接点を使ってもスイッチの電流容量が増えるわけではないことに注意してください。先に述べたように各回路の接点は同期しているとはいえ多少のタイムラグがあります。接点が接続される瞬間、または切断される瞬間には最初の接点、または最後の接点に全電流が流れます。接続時の突入電流や切断時のアークはその接点が負担するので、電流容量は増えません。向上するのはあくまで信頼性であって、性能ではありません。


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